当店名物店員okayanプレゼンツ「ヨタバナシ」。日々のこと、お店のこと、ワタクシのこと、あんなこと、こんなこと、ちょこちょこ書いてます。

April 4, 2008

1年間のタマモノ。

[ オミセバナシ ]

去年の春、3月のはじめ。

ランチタイムもそろそろ終盤にさしかかった頃.....店内はだいぶのんびりしてきて、僕らもひと息つきつつ片付けものをしながらの営業時間.....彼女は一人でがらりと扉を開けて入ってきました。ぱっと見、とてもきれいな顔立ちの若い女性のお客さんだと.....前にご来店いただいたかなと.....いや、はじめてのお客さんだなと思いました。ホールスタッフの清水が壁際のテーブル席のご案内すると、彼女は....ひとり壁に向かって座られました。ちょっと変わってるなと思いました(笑)。

お食事を済まされ、レジのところで彼女が声をかけてくれました.....キッチンスタッフ募集の面接は受けられますか?と。

ちょうどその頃......オーナーと同じくフルタイム働いてくれてたキッチンスタッフのヒデキを卒業させるためにスタッフを募集していました。年末から募集をかけてましたが、なかなかキッチンスタッフは決まりませんでした......応募はあるものの、面接をし、それでは一日お試しに入ってみませんかと.....そのお試しに入る前に辞退されてばかりで.....ま、でもそのくらい条件が悪かったということです、労働時間も休日も、もちろんお給料も(それでもオーナーよりははるかに好条件....苦笑)。

翌日すぐに面接に来た彼女。
その場で....条件的にはOKというわけではないけれども....はじめて一度お試しに入ってくれることになり、その当日。オープン前の仕込みから、ヒデキがついて作業をこなしてもらいます....と、以前にカフェでキッチン仕事をしてたということで、しょっぱなからかなりの仕事が出来ます.....作業のスピード、段取りのよさ、そしてキッチンそのものの使い方、オペレーションの中での動き方.....ほとんどなにをとっても問題なしでした.....これはすごいぞ!春になり、そろそろヒトが見つからず焦ってた僕らの前に、彼女が現れた!これはいける!僕らは大いに期待しました。

しかし....彼女にも弱点がありました。

それはシンプルに体力がないということでした。

実際とても華奢な彼女.....重いものの持ちはこぶといった単純な肉体労働だけでなく、長時間の立ち仕事や忙しい時の休憩なしのぶっ続け営業を考えると....確かにあまりに頼りなげ、その上....以前の職場で体調をこわし入院して、その職場に迷惑をかけた.....それが彼女の中でとても大きなトラウマになっていました。
何度かお試しや研修で入ってくれてはみたものの.....逆にうちのお店の仕事のハードさや条件の厳しさをつくづく感じることにもなり.....ただ....やっぱりうちのお店で.....うちみたいなお店で和気あいあいと働いてみたいという気持ちだけはあって.....でも、またそんな人達に迷惑をかけるんじゃなかろうかという彼女のその不安.....それが堂々めぐりしているわけで....それがせつなすぎるほどよくわかったりして....そうするうちに、そろそろ結論を出さなくてはならないという期日になってしまったのでした。

じゃ、明日、返事をももらいます。

と、その日彼女が上がる時.....夕方の書き換えをしに下りた僕は....帰りがけの彼女に声をかけました.....というか、声をかけるというより、必死に口説きました(笑)。だってそうでしょう、こんなにまだ若くて、可能性だって十分あるのに.....単純に今体力がないこと.....結局それだけのために、働いてみたいと思うところで働くという決断が出来ない.....誰かに迷惑をかけないように、今の自分の体力で出来るところで.....と考えた時、若い彼女のこれからの人生.....その可能性が....実際の彼女の力に比べると.....ホントにちっぽけに見えて....僕にはどうしても見過ごすことが出来ないのでした。

だから絶対に....なにがなんでも彼女をうちのスタッフとして取ろう。

それで....迷惑をかけられることがあったとしても、それでもいいから.....そんなのみんなで助け合って、そして彼女もお店も成長していく、そんな風になってけばいいんだよと、ヒトに迷惑をかけることより、今自分が進みたい道なのかをよく考えて欲しい.....と、いい歳のおぢさんが若い女の子にコンコンと語る夕べ(笑)。

あんまり僕が必死に口説いたせいか....翌日彼女はYesの返事をくれました。
昨日話をしてもらって.....それで決めました、と。

それが.....僕にとってどんなにうれしかったか。

しかし.....ま、当たり前といえば当たり前ですが、やっぱり彼女は体力がなかった(笑)。はじめてシフトの時間どおりに入りますよと.....あんまり緊張してたせいか、ランチが終わるやいなや、人のいないカウンタにへたり込んだり、少し慣れてはきてからも、やっぱり長時間働くとハタ目にも....疲れ果ててるなとわかりました。それでも.....カンタンに彼女に手をさしのべることは出来ませんでした。それは彼女を.....結局あの頃のままにしておくことになるから。

ホトホト疲れて上がる彼女に、おつかれさまと声をかけながら.....なんとか一年続いてくれないかなと、そうすればきっと彼女は.....と、ちょっと祈るような気持ち。

そして、この春、
その1年が経ちました。

そう、その彼女って....すでにおわかりですよね、
ガヮちゃんです。

1年を待たず、少しづつ体力をつけてきた彼女は.....ホントにその力を遺憾なく発揮してくれましたし、ヒデキが卒業する頃にはすでになんの不安もなくなっていました....でも、それは彼女が、彼女自身が次のステップに行くために、いろんなことをコツコツ努力してきたからで.....僕らに迷惑をかけないようにと.....自分の体力や体調を鑑みつつ、ホントに細かく自己管理をしてきてくれたし、食材やメニュー、調理法など自宅でも意欲的にやってくれている.....そんな彼女自身のタマモノの一年なのです。

もう、どのお店に行っても、きっとやっていけますね。

ま、でもまだまだうちで、いっしょに仕事していける.....そんな毎日をもちろんこれからも楽しませてもらいます。

あの時必死で口説いてよかったなーと、
たまには役に立つじゃん、オレ、みたいな(笑)。

ちなみに......はじめてきたランチで彼女が注文したのは「サーモンフライ・タルタルソース定食」。タルタルソースあんまりスキじゃないけど.....ここのはホントにおいしい!と、それで面接してもらおうと思ってくれたのでした。

まさに、今日のランチの日替わりメニューなのでありました。

ガヮちゃん、ありがとう。
これからもたのみますよ。

 
この記事につぶやく。 感想など送る。 このページのトップへ。